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星さえ見えない闇夜の空を、すべるように舞うように、一条の閃光が切り裂く。
光は勢いを増しながら、人の背丈の三倍はあろうかという黒い怪物『夢魔』に向かって突き進み――
「ぶち抜けーーッ!」
――その巨体のど真ん中に、見事に風穴を穿った。
赤くおぼろな光を放っていた夢魔の両目が瞬く間に輝きを失うと、巨躯は黒い砂塵となって、灰が風に吹かれるように散り散りに消えた。
「おつかれさま。今日もなんとか無事に終わったね、アキ」
戦いの終わりを察したパートナー妖精のピルルが、嬉しそうに空中でクルクルと踊る。
今しがた、あの謎の怪物『夢魔』に力いっぱい体当たりをぶちかまし、これまた奇妙な妖精に『アキ』と呼ばれた少女こそ、突如降り注いだ災厄から人々を守るために使わされた魔法少女クリティカル・アキ。
つまりは、わたしだ。
「このくらいなら、なんとかね」
ピルルに軽く手を振って、わたしは地上に降り立つと、ひとまず用の済んだ戦闘用の衣装を脱ぐことにする。
ただでさえ布地少なめの服が、戦いでもうちょっと悲惨なことになっていて。
端々が破れたスカートからは今にも色々見えそうなのよね。やだなあ。
透けるかと思うほど白くスカート丈の短い、いたる所にリボンやらフリルやらついた、いかにもといった魔法少女のドレス。それが淡い光に包まれたかと思うと、もう元の地味な私服に戻っている。こうして着替えるのは何回目かになっていたけど、メカニズムはいまだによくわからない。
「夢魔もいなくなったし、元の世界に帰ろうか」
「そうね。長居は疲れちゃうし」
言うが早いか、ピルルは帰る準備に取り掛かる。そんな彼を横目に、わたしは乱れ気味の髪を、持っていたヘアゴムで簡単にまとめた。
ちなみに普段は三つ編みだけど、さすがに今日のように、市街地の真っただ中で結わえるのは気が引ける。それがたとえ、すぐに消えてしまう光景だとしても。
「アキー、はやくはやく」
ピルルはすっかり帰り支度を整えて、わたしの前にはどうにも表現に困る色の、穴のようなもの、通称『夢現ゲート』が、口を開けていた。
ここは、誰かの夢の中。
闇色の空も、本物そっくりの建物の群れも、全てはつくりもの、だ。
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