月との秘密

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「…では…また明日な…」 「うん。一さんおやすみー」 夜。僕は丁度出くわした一さんと一緒にお風呂に入ってきて、今あがってきたところ。春の夜はまだ肌寒いところがあるけれど、お風呂で温まった身体には丁度いい。 今夜は、新八さんも左之さんも巡察だから静かな夜になりそう。 縁側に出れば丁度月が出ていて、半分も過ぎた形をしていた。 お饅頭みたいなお月様。なんだか無性に食べたくなってきちゃったな。…そうだ、総司さんならお饅頭買い溜めしてるかもしれない。 総司さんの部屋に行こうと一歩踏み出したところで、柱に寄り掛かる人物がいる事に気が付いた。あれは…祐美ちゃん? 「祐美ちゃん何してるの…って、アレ?」 偶然居合わせた好きな人にドキドキしながら声を掛けてみたけれど、返事がなくて。顔を覗き込めば、愛らしい表情で祐美ちゃんは寝息を立てていた。 ふと目を落とすと、その手には土方さんが旅の道中ではいてた袴があった。そういえば、帰り道で枝に引っ掛けて穴開いたんだっけ。 あ、もっと思い出した。二手に分かれて隊士募集してた時、土方さん、ほっぺに紅葉模様つけて帰ってきた事あったっけなあ。 伊東さんが面白半分で訊き出そうとしたんだけど、土方さん一切話さなくて。後々一さんが僕にだけ何があったか話してくれたんだ。 許嫁の解消。それにより逆上した許嫁本人から強力なビンタをお見舞いされた事。 祐美ちゃんが知ったら悲しむだろうけど、昔の土方さんは結構ヤンチャだったというか…火遊び常習犯で、女のコとっかえひっかえしてたんだよね。まあ、試衛館に正式入門してからは足を洗ったらしいけど。 まあ、それはさておき。そんな人様から恨まれるような生活してたのに、今回みたいな女のコから手ェあげられるような事は一切なかったんだよね。“うちの妹(時には娘)に何してくれたんだ!”なんて私刑(リンチ)はあったらしいけど。 なんでも、“あんな綺麗な人のお顔なんて叩けません”なーんて、恨むどころか頬染めてたらしい。こういう時美男って得だよね。 まあ、だいぶ話は逸れたけど、そんな土方さんの顔を引っぱたいた訳だから…いや、引っぱたいた時点でその人も相当自尊心(プライド)が高いというか…。正直、僕も相手にしたくない分類かも。
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