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でさ、そう考えると、土方さんは偉いなあって僕は思う。上京した時点で許嫁なんて反故になったようなものなのに、敢えてちゃんと断りに行くって。加えてそんな性格の人相手にだよ?
まあ許嫁だった以上、ちゃんと断らなきゃってのもあったんだろうけど、それ以上に女性に関して後腐れなくしときたかったんだろうね。それだけ祐美ちゃんに対して本気なんだって事だよ。
「………」
…一体いつからかな。僕が祐美ちゃんの事諦めるようになったの。
“僕は祐美ちゃんが好き。土方さんが相手だろうと諦めない”。そう一さんにも宣言したのにな。
祐美ちゃんが土方さんを慕ってるのは初めから分かってた。好きな気持ちにも気付いてた。
土方さんが祐美ちゃんを大切に想ってる事も、特別な存在になっていってる事にも気付いてた。
気付いてたうえでああ言ってた。“諦めたくない”と。
なのに、一体いつから僕は、二人の間に割って入る事は出来ないと、祐美ちゃんは決して僕のものにはならないと、そう理解してしまったんだろう…。
「おや平助。まだ起きていたのですか?」
「伊東さん…」
そんな時、僕たちのところへ伊東さんが通りかかった。伊東さんは僕たちと入れ替わりでお風呂に入ったはずだから、僕は随分長く物思いにふけっていたみたいだ。
「湯冷めは風邪のもとですから、早く部屋へ行きなさい…っと、おやおや祐美君もいたんですか」
「祐美ちゃんは土方さんを待ってるみたいなので大丈夫ですよ。あんまり遅くなるようだったら、僕が起こすので平気です」
祐美ちゃんのフニフニほっぺに触れる伊東さん。ちょっと胸がざわついて、僕はガラにもなく伊東さんを追い立ててしまった。
「………そっか。あの時からかも…」
伊東さんの登場で、こんがらがりが少しほどけた気がした。
僕が祐美ちゃんの事を諦め気味になり始めたのは、もしかしたら伊東さんが入隊した頃からかもしれない。
伊東さんは僕に北辰一刀流を教えてくれた師匠だ。まあ、その後いろいろあって、僕は試衛館に身を置く事になるんだけど。
それはさておき。だから僕は、伊東さんが入隊してくれた事、大切な人が大切な人と意気投合して、大切な仲間の一人に加わるって事がとても嬉しかった。
でもその反面、不安でもあった。
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