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近藤さんも伊東さんも人を魅了し、引き寄せ、上に担がれる人だ。杞憂かもしれないけど、もし近藤さんと伊東さんが対立してしまったら、新撰組は真っ二つになってしまうんじゃないかって。
もしそうなって、近藤さんか伊東さん、二人のどちらか選ばなきゃいけなくなってしまったら、僕は一体どちらを選ぶんだろうって。
そう思って考えた時、祐美ちゃんは僕の隣にいなかった。
心配そうに僕を見つめる祐美ちゃんばかり浮かんで、その隣には土方さんがいた。
想像すら出来なかった。僕だけを見てくれる祐美ちゃんを。
“祐美ちゃんは僕のものにはならない”。言葉で表現するのは難しいけど、理性じゃなく感覚で、何よりも先に納得しちゃった。“あ、やっぱりそっか”って。
それから、もう一つ気付いた事。
僕は祐美ちゃんの事が好き。
でもそれはただの祐美ちゃんじゃない。
土方さんと一緒にいる…好きな人の事を想っている祐美ちゃんだ。
土方さんの事で悩んだり苦しんだり、怒ったり…特に満面の笑みを浮かべた時。
気付いてる?祐美ちゃんが笑う時、土方さんが関わる時とそうじゃない時とではだいぶ違うんだよ。本当は僕の事でそんな顔をしてほしかったんだけどなあ…。
仕方ないのかな?恋をする祐美ちゃんを僕は好きなっちゃったんだから。
ま、例え祐美ちゃんが選んだんだとしても、昔の土方さんみたいな人だったら絶対に反対するけどね。今の土方さんだからこそ、僕はストンと納得してしまうのかもしれない。
「んんん…」
そんな時祐美ちゃんが声を漏らし、わずかに体勢が崩れた。そしてそのまま何事もなかったかのように、再び一定の寝息を立て始める。
その吐息が零れる唇はぷっくりとしていて、美味しそうに見えてくる。好きな人のだからこそ、なおさらそう見えるのかな…?
「祐美…」
ツンツンと軽く鼻をつついてみるけど、全く起きる気配がしない。伊東さんのフニフニでも起きなかったんだもん。相当深く寝入ってるみたいだ。
「…初めてかもしれないけど…寝ちゃってるから、奪った事にはならないよね…?」
こんな事してごめん。
だけど、今夜までだから。明日になったら…逢引が終わったら諦めるから。
今はまだ、祐美を好きな俺のままでいさせて…。
そんな自分に都合のいい言い訳をしながら、俺はうっすら開いたその唇に自分のそれを重ねた。
その失恋の口付けを知るのは、俺と空に浮かんだ月だけ…。
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