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 日中はとにかく、目の前の状況を観て、立ち回りを続けた少年だったが。(さや)かな金髪の人間の娘――ディレステアの王女にはもう少し後で、深い事情の説明を求めた。 「あんたが本当にディレステアの王女なら、何でこんな所で危ない目にあっているんだ?」 「……そうよね。改めてきちんと、話をさせてね」  そこでまた、あの謎の抜け殻蛇が姿を現していた。ソレの勧めで少年達は、先の死体を埋めてから近くの苔むす洞窟に移り、身を隠す野営地としていた。 「アディちゃん達が無事にここまで来れたのはオイラの功績にょろ。感謝するにょろ!」  全然無事じゃないじゃない! という王女の抗議はともかく、抜け殻蛇は本来そうして、王女達を導き、帰国までの道案内役を申し付けられているそうだった。  土より石の成分が多い洞窟で、湿気の多い山の夜となると、初春には結構な寒さを覚悟するものだ。しかし火打石もなしに忍の少女はすぐに火を起こし、燃料の薪もろくにないのに、少年の守る入り口にまでその温かさが広がってきた。 「シヴァちゃんがいれば薪がなくなっても、暖は十分にとれるにょろ。だからオマエは、この洞窟を離れるなにょろ」 「……それなら、わかった」  付近の峡谷の急流で、昼の内に飲み水は十分確保してある。そこらの棒に(つが)えた竹釘で魚も数匹打ち捕り、王女と忍の少女はそれを夕餉にするのだという。そうした形で逞しく山旅をしている同年代の王女達に、少年はひたすら感心しきりだ。 「ねぇ! キラの分も焼けたから、しばらく見張りは休んで入ってこない?」 「……――」  一人で里を出た時から、少年は絶えない吐き気につきまとわれていた。 ――それで、おめぇはどうするんだ、キラ。  覚えているのは一面の血溜まりと斬られる肉の痛み。殺される、消えていく恐怖。  でもそれは、誰の「死」だったのだろう。 ――オマエ……何で生きてるんだ、キラ!?  溶鉱炉と化した喉は「生」を拒絶し、小匙一杯の命も受け付けない。後はもう、止めどない嘔吐の記憶しかない。  最早、水を飲もうとするだけでも嘔吐く。人間とは違う化け物であるから、元々食も細く、何も摂らずとも今は何とか動けていた。  魚を焼く煙が濛々と漂ってきた時、匂い一つで喉を焼かれて、思わず吐いてしまった。王女達にはそれを隠して、食事はいらないとだけひっそりと告げた。
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