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苦い動揺を黙って噛み殺し、少年は王女の話を座して待つ。
「私はディレステア代表として、和平交渉の場、第四峠ディレステア大使館に足を運んだ。第四峠はね、ディレステアとゾレン東部とエイラ平原の三地方の境だから、ディレステア大使館はエイラ平原側にあるのよ」
「ってことは……」
「そう。交渉はご破算……開催すらできなくて。私達はエイラ平原から必死に帰国中なの」
「……――」
顔をしかめる少年に、忍の少女がまた強く、両手を握り締める痛みが伝わってきた。
「案内役のデューを私達に渡したのが、ソリス大使といって、第四峠のレジオニス大使で……十年ぶりの和平交渉を設定したのは、そもそも大使なのだけれど。私達は、最初から大使に騙されていたの」
「えっ?」
「和平交渉ができなくなったのは、大使が、第四峠ディレステア大使館を襲う反乱勢力をわざと見逃したからなの。おかげで私達は、第四峠を通って帰ることもできなかった……レジオニスは本当に、油断ならない相手なの」
「そうそうにょろ! ディレステア大使館を襲った連中は、第四峠のレジオニス大使館で出国を許された、みんなディレステア人達だからな、にょろ」
どうやらディレステアには、ゾレン以外に国内の反乱勢力という厄介な敵があるらしい。内乱をしている場合かと王女が憤る前で、人間も案外バカだと少年はこっそり呆れる。
「あれにょろ? シヴァちゃん何で、オイラの首を絞めるんだにょろ?」
ほとんど表情のわからない忍の少女まで怒気を隠さず、膝の抜け殻蛇に憤慨を向ける。
「アナタもレジオニスでしょ、デュー!」
王女が呆れた怒声を出した時に、少年の中で、何かの違和感がつながった気がした。
「そのガラ蛇は……化け物なのか?」
尋ねた少年に、抜け殻蛇が身を乗り出して、焚火ごしに少年のバンダナに頭をぶつける。
「化け物以外の何に見えるにょろ! オイラをバカにしているのかにょろ!」
「…………」
体の一部が透き通る抜け殻の、がさがさとして薄い影が、洞窟の壁にゆらゆら揺れる。
少年はバンダナのずれを直しながら、今も持て余している違和感を、ぽつりと口にした。
「俺には――アンタは、違うものに観える」
「……にょろ?」
「アンタは本当に……レジオニスなのか?」
そのおかしな化生に自身が何を言いたいのか、よくわからないまま少年は呟く。
純血であれば、そもそも有名でまかり通った姿形。雑種はヒト型が原則であり、それら以外の出自が判別できない化け物を魔物と呼ぶが、抜け殻蛇はまさに蛇の抜け殻で、全く意味のわからない存在でもない。それで逆に、何と呼べばいいか不明な謎の物体だ。
「デューはレジオニスから、私達の帰国用に渡された案内役なの。交渉は潰されたけれど、私達が死んでもレジオニスは困るのよ」
「……何で?」
「知らないわよ! ソリス大使がそう言ってデューをよこしたのよ!」
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