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 同じ中立地帯でも、砂漠の熱帯エイラと秘境ザインは大きく違う。  好戦的な純血の化け物の集まりであるエイラの、中立を維持する化け物軍団が「レジオニス」なのだ。交渉妨害の責任問題から窮地に陥った王女に、仲介人の第四峠レジオニス大使は、一つの取引を持ちかけたという。 「ゾレンへの手土産に、私の護衛を捕える。その代わり私達は国に帰すからと、コイツの案内通りに帰れって、そう言われたのよ」  そして少女達はその条件通り、名の知れた護衛を差し出し――引換えにそのデューシスという抜け殻蛇を貸し出され、ディレステアへ帰国する脱出路としてここに案内されてきたようだった。  第四峠レジオニス大使。王女が思い浮かべるその姿が、不意に少年の視界に混じった。  鋭い金色の眼で、肩で細く長い髪を束ねた緋色の髪の男が、にやりと不敵に笑っている。 ――王女様達も、せいぜい頑張って帰国してくれよ?  しかしその大使の眼は笑っていない。そこで追想上の男の姿は途切れた。 「オイラはもうシヴァちゃん派にょろ! レジオニスには戻らないから安心するにょろ!」 「だからアナタは軽過ぎるのよ、デュー! どうしてそんなの信用できるっていうの?」  少年がそうして何かを意識しかけても、この騒がしい場ではすぐに沈んでしまう。軽く溜め息をつきつつも、それで吐き気も紛れているので、気分としては悪くなかった。  斜向(はすむ)かいで騒ぐ王女達を置いて対面を見ると、抜け殻蛇の離れた忍の少女は一人俯き、押し殺した溜め息を長々とついている。随分と、重い疲れを感じているようだった。  異郷を訪れ、その目的である和平も叶わず、ここまで忍の少女だけで王女を守ってきた。今も唯一の協力者が、敵国の化け物のヒト殺しとなれば無理はないだろう。  他に護衛がいない理由もわかった。化け物の気配探知や魔道による追手を無効にする「壁」があるなら、残りの護衛を囮に、少数で逃げ切る道に賭けたのだろう。  項垂れる忍の少女は、それでも少年の視線にすぐに気が付いていた。無遠慮に見つめる少年を警戒し、何だと言いたげな紅い目をじっと向けてくる。 「…………」  少年の視界、故障した五感に、忍の少女が見ているもの……銀色の髪に黒いバンダナを巻く赤い目の少年が、不意に混じり込んでくる。 ――……貴男は、誰?  忍の少女――黒い鳥に観える相手と、少年は感覚がつながりやすいのだろうか。黒い鳥は少年に気を許していないのに、何処かで会ったことはないか、という疑念を持っていることが伝わってきた。少年がこの黒い鳥を見たのは、今朝が初めてであるのも関わらずに。  それで黒い鳥は、ヒト殺しの少年を護衛と一時的に認めたのかもしれない。
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