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時は「神暦」。舞台は「地の大陸」、数々の「化け物」の三大潜伏地――ヒトならぬ力を持つヒトや、忍という素性不明の雇われ者も暗躍する、物騒な大陸の山々の何処かで。
「この……不届き者達!」
薄暗い山辺で、追い詰められた最弱のヒト、うら若き人間の娘が叫び声を上げる。
「私が誰なのか知っての狼藉と言うなら、貴方達に未来はないものと心得なさい!」
山賊まがいの男達に取り囲まれた人間の娘が、外套で覆う細い身を強張らせる。傍らに立つ「忍の者」らしき黒装束の少女が、鎖骨下までの面紗をひらりと揺らして進み出る。
「どうして!? 貴方達、『ディレステア』の国民でしょう!?」
忍の者はその名の通り、世を忍び素性を隠す雇い人だ。大抵の者が並外れて体を鍛え、化け物の「力」を持つことも多い。それなら人間の賊など虫けら同然の相手のはずだった。
しかしその、年端もいかない忍の少女は、まだヒトを殺したことがないと観られ――
覆面の面紗に唯一隠されない端整な紅い目で、襲撃者を睨むだけの護衛。筋骨隆々の男達は歪んだ嘲りを浮かべ、下卑た笑みを零し合った。
中心にいる男が荒々しく忍の少女の腕を掴み、打ち捨てるように地べたへ払い除けた。
「――……!」
「シヴァ!?」
倒れた少女に娘が振り返る。長い金髪と鳥の紋章を刻む首飾りが揺れる。
その姿を笑うように、別の大男がすかさず、娘のかぼそい腕を掴み上げた。
「いたッ……! 離しなさい、無礼者――!」
人間の娘の手背には「D」が刻まれている。掴む大男の手にも同じく「D」の刻印。
もがく娘の、香りを間近で楽しむように、にやりと大男はその手を乱暴に捩り上げた。
「あッ――……! やめ、なさい……!」
「……!!」
大きな赤い目をきつくしかめて、軽々と娘が釣り上げられる。すぐに立ち上がっていた忍の少女は身を低くし、不甲斐ない己を叱咤するよう男達を睨みつけた。
護衛たる忍がついぞためらいを持ってしまった。そんな呪わしき甘さを振り切るように――「力」を秘める胸に、決意を刻んだその時だった。
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