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 大男の厚い胸板を、背後から容赦なく、白銀の長剣が貫き通した。 「ぎ――あッ……!?」  たぎる心血が一瞬で途絶える。笑うような顔で大男の命数が尽きていく。哀れな大男は何が起こったかもわからないように、人間の娘を手離し、あっさり地面へ崩れ落ちた。 「なっ!?」  周りの仲間がざわめき、倒れた大男のすぐ後ろへと、がん首を揃えて慌てて振り返る。そこには絶命した大男に隠れる体格しかない、銀色の髪の少年が無言で立っていた。  刃にまみれる肉片を振り払った少年は、外套を翻し、無骨な長剣を片手で中段に構える。黒いバンダナが閉ざす双眸に男達を捉えて、そのまま静かに呼吸を止めた。  受けた血しぶきを隠す黒衣で、吹けば飛びそうに細身なあどけない少年。男達はすぐに気を取り直すと、各々手斧や棍棒を握り直し、数をもって圧倒せんと襲いかかった。 「このクソガキが! よくもやりやがったな!」  少年は無慈悲な目線と、両刃の剣の切っ先をまっすぐ男達に向ける。  そしてあえて断ち続けている呼吸――己が「命」を全て、戦う力に振り分けていく。  愚鈍な攻撃は少年の纏う外套にさえ触れず、一方少年の刃は確実に男達の心の臓を貫く。  人間の娘と忍の少女は互いにかばい合い、その非情な血振いを声も出せずに凝視する。 「……!」  人間の娘にしがみつかれた忍の少女が、腕にくい込む指にはっとして娘を下がらせる。殺し合う少年達と娘の間に迷いなく入り、毅然とした面で出で立っていた。  そのような、全身黒ずくめの少女が横目に映る。少年はようやく、返り血まみれの柄を握る高揚をごくりと飲み下す。 (……あんたが……さっきの黒い鳥?)  少年は、自分がどうしてこの場にいるのか、それがまず不思議だった。  育った隠れ里を出て、山を下りたばかりの先刻、「黒い鳥」の居場所を感じてここに導かれた。近傍に限定されるその本能は通常であれば、「気配の探知」と言われる化け物特有の探索能力だ。  しかし少年は、故障した五感を持つためか、化け物にはすべからく備わるその第六感が鈍い。そのためここまでの道のりは、少年自身にも不可解ないざないの結果だったのだ。
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