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 少年の五感は、周囲にあるもののことを我が事のように感じる。  犠牲者の心腑(しんぷ)を無下に壊していく度、故障した五感の末端まで「死」の味が行き渡る。天性の死神はただ一度だけ、薄い口の端を釣り上げて静かに笑った。  屈強な男は六人いたが、あえなく五人が殺されたところで、最後の一人が武器を捨てて走り出した。 (コイツを逃せば……仲間を呼んでくる)  こんな人間、何人来ようが殲滅できるが、忍の少女と人間の娘はそれでは困る気がする。  男達はただの追いはぎではなく、行動には何か狙いがあった。自他の区別が曖昧である少年の知覚は、その心情を大まかに察し、潜在的な危険の存在をしきりに警告する。  奇声をあげる男が焦って躓いたせいで、最後の刺突は心の臓から逸れてしまった。 「……っ……!」  そしてその虐殺の代償、故障した五感による耐え難い罰が、ヒト殺しの少年を襲う。 (痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い――) ――痛い痛い死ぬのは嫌だ痛い怖い……!  男はなかなか意識を失えずにのたうち回る。なまくらな剣に血肉がもつれ、永い一瞬の壮絶な苦痛、それを少年は感じてしまう。  全身全霊で無比の嘔吐を堪える間に、やがて最後の一人も息絶えていき――  俯く少年の顔は、上腕にかかる外套に隠されて誰にも見えなかったが、それは男の命が終わる瞬間、自身も消えてしまいそうな安らかさを浮かべていた。 (……ああ……痛い、な――……)  少年はそうして、その身に決して拭えることのない「死」を刻む。  よりかかっていた剣から顔を上げると、離れていた忍の少女と人間の娘が近寄ってきた。 「アナタ……大丈夫?」 「…………」 「助けてくれて、ありがとう……ところで、アナタ、『ゾレン』の化け物のヒト?」  剣を握り締める少年の手の「Z」の刻印を、「D」を持つ人間の娘は見たのだろう。この「地の大陸」全般で通じる、堅苦しい共通語で尋ねてきた。  警戒しているが、怯えてはいない勇敢な人間の娘に、少年は同じく共通語で質問を返す。 「……そういうあんたは、『ディレステア』の人間?」  少年は一応共通語を使えるが、母語ではなく、話す方にはあまり自信がない。聴く分に関しては、故障した五感もあるためなのか、誰の言葉でもよくわかる。  人間の娘も母語は違うようで、少年とは何とか共通語で話ができるとわかると、ほっとしたように少年の返事に頷いていた。
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