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腰まで下ろす長い金髪の一部を、両耳の上で二つに束ね、快活そうな人間の娘は「アディ・ゾーア・D」と名乗った。
「私はアディでいいわ。こっちはシヴァ――私の大切な友達よ」
忍の者と連れ立った人間の娘は、どうやら単純な雇用関係ではないらしい。人間の娘の硬い顔は、忍の少女を紹介する時には少し和らいでいた。
「シヴァは喋ることができないの。だから話は私にさせてね」
小さな貝殻の笛を首にかける忍の少女は、何かあるときにはそれで合図をするという。
少年は不意に、妙にもやもやとした気持ちを持て余すことになった。
「それは……大変、だな」
人間の娘はしれっとしているが、忍の少女は少し揺らぎを見せていた。つまり嘘であるようだが、詮索しても迷惑だろうと思い、余分な疑念はすぐに脳裏から消していく。現在の問題はそれよりも、この生臭い殺戮現場をどうするかの一言に尽きた。
暴漢への対処とはいえ、一方的で多数の殺人は「神」の天戒に反する。今後紛糾を招くはずの死体を、少年が背中、少女達に頭と足を持たせて、近くの浅い森へと運び込んだ。
離れた岩場に移動し、腰をかけて休むと、同じように座り込んだ人間達が少年に重い顔を向けた。
「あんた達はここで、何をしているんだ?」
忍の者連れとはいえ、かよわい人間の娘はどうしてこんな秘境にやって来たのか。短い腰巻きに膝丈の中履きと盗賊のような恰好だが、光沢ある白の分厚い外套はかなり上等な生地と見てとれ、何より護衛の忍を雇える富裕な身上のはずだ。
他郷より多く化け物が闊歩するこの大陸で、「ディレステア」という国はほぼ人間で構成されていると、秘境「ザイン」の少年は聞いたことがある。そしてディレステアの両脇に広がる君主国が「ゾレン」――「化け物と人間の共存」を謳う雑種大国なのだが、ゾレンの理念は最早過去のものと見做され、人間の国ディレステアとゾレンは三十年以上紛争を繰り返していた。
だから本来、ゾレン出身で「Z」を手甲に刻む雑種の少年と、ディレステアの「D」を刻む人間の娘は敵対関係にある。
それでも人間の娘は、この地にいるわけを明かすどころか、少年が殺した男達の問題も放り投げて、鮮烈な赤の目でとんでもない依頼をしてきたのだった。
「ねえ、アナタ。単刀直入に言うけれど、私達のこと、しばらく守ってくれない?」
少年は思わず息を飲んで、人間の娘を見返すしかない。その目前で沢山の人間を殺した野蛮な化け物に、それはあまりに、愚策な頼み事ではないだろうか。
「あんた達のことを……守る?」
「ええ。私達はエイラ平原から国に帰るために、『第二峠』を目指してここまできたのよ」
「あんた達――……第二峠に行くのか?」
運命のような偶然としか言えなかった。追い立てられるように隠れ里を出た少年は、当初の目的地を思い出した。
「俺も第二峠に行きたかったんだ。それなら俺を、第二峠まで連れていってくれないか」
この状況で人里に向かい、人間を六人も殺したことが明らかになれば、ヒト殺しとしてどんな咎めを受けるだろうか。それでも少年には、第二峠に行きたい理由があった。
そんな少年に、人間の娘と忍の少女は大きく目を丸くして、顔を見合せている。
「……?」
二人の困惑の理由がよくわからず、少年も黙って答を待っていたところに――
ソレは突然、少年の前に飛び出してきた。
「オマエ、バカだなにょろ? 中立地帯でよそ者を殺した上に、ゾレンから第二峠に行く程度で、どんだけ遠回りをしてるんだにょろ!」
「……――は……?」
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