ある夏休み

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その子は髪の毛を短く切っていて、それが風にサラサラと揺れていた。 薄暗闇でよく見えないけど、 たぶん小麦色に焼けた肌の色、 大きめのシャツにハーフパンツにサンダル。 地元の女の子みたいだった。 「こんな所で寝たら体が痛くなるょ?風邪も引いちゃうかもしれない」 彼女は僕を真っすぐ見ながら言った。 『ありがとう。すごく気持ち良かったからつい寝ちゃってた』 僕はあわてて立ち上がり、服に着いた砂を払った。 「えさ…見たら?多分もうないと思うけど」 彼女は僕の竿を指差して言った。 夕方くらいからずっとほったらかしにしていた竿だ。 竿を手に取り、リールをまいて糸を巻き上げる。 糸の先に着いた針だけが見えた。 えさはない… どうやら魚はちゃんといたらしい 友達と僕が釣りが下手だっただけのことみたいだ。 『魚…いないと思ったらちゃんといたんだな。えさ、ついてないや』 「今日、なんか釣れた?」 『いや、なにも』 問い掛ける彼女に答える。 「そぅ…残念だったね」 『そうでもないよ。今日はずっと海を見ていたから』 彼女と言葉のキャッチボールを続ける僕。なぜだか言葉がするすると出てくる。 「海を見てたの?ずっと?」 『海と空を見てた。空が夕焼けで赤くなって、日が落ちて青色が濃くなって紫色、藍色になって…それが綺麗でずっと見てた』 僕は女の子と話すのが得意じゃない。 いつ頃だったか、女の子は苦手になっていた。 子供の頃は、同じように遊んでいたのに、段々女の子と男の子は別の遊びをするようになった。 そして一緒に遊ばなくなった。 そして誰かが誰かを好きなったとかどうとか… そんな話を女の子同士がするようになっていた。 僕達、男子を見る女子の視線がなんか複雑でイヤになってきてた。
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