1639人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
「あはは」
「笑っている場合じゃないですよ」
「あ、怒った。現状の改善、つまり助けて欲しい、愛して」
「三回目はさすがに怒りますよ!」
藤田先輩は聞いてくれない。
出会ってから一番笑っているかもしれない。こんな形で彼の全力を見るとは、不本意だ。
「……この後、どうする?」
「どうするもこうするもないですよ。考えてやっと先輩のところに来たのに、若干気まずいじゃないですか」
「ゲーム、どうしようか」
やるわけがない。
楽しそうな藤田先輩に横から突付かれて、話を聞かれてまた笑われる。ゲームをしている場合じゃない。
「帰ります」
「俺への用事は、終わり?」
「はい。次に来た時はゲームをやります」
「ここに来る暇は、もう、なくなるんじゃ……」
「暇じゃなくても来ますから」
十分もいなかった。
せっかく来たのにもう行き場がない。友達は少なくないと思っていたけど、そんなこともないのかもしれない。
次はどうしようかとスマホを取り出すと、菜月から留守電が入っていた。
電話をしたことがないのかというくらいの声量なので、耳からスマホを離す。寮の廊下に俺以外の生徒がいたら、嫌でも菜月の素敵な声が聞こえてきただろう。
内容としては、サクの件の釈明と、二人が話していた話題を数十秒にまとめてくれていた。
あの時二人は、サクの英語の宿題を進めていたらしい。
スピーチを考えるためには、要点をまとめなければいけない。途中、絵本の中身に引っかかる表現があってサクが菜月に相談しようとしたところで俺が来て、サクは慌てて隠れんぼ中の小学生の様な逃げ方をしたのだとか。
「絵本の中の魔法使いが世界に初めて付けた色が青で、青は人間を悲しくさせたんだって」
留守電の中の菜月が言っていた。
青が人間を悲しくさせるというテーマに、サクの手は止まった。宿題の対策方法に詰まったのではなく、青から連想される身近なものに悩んでいることを思い出して、菜月に相談したのだ。
生活範囲も人間関係も引きこもってる櫻井にとっての身近な青色なんて、海と空を抜いたらもうお察しだと思うのですが。
同じ内容をサクから聞いても、俺が暴れて終わりだった思うので、菜月から話を聞けて良かった。周りに助けてもらってばかりだ。
最初のコメントを投稿しよう!