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「やっぱり時田は、サクに手厳しいなあ」
菜月がしみじみと言う。
「なんでだろう」
俺自身は考えをそのまま口に出して喜んでいるに過ぎないので、俺に聞かれても答えは出ない。菜月は自分の事のように熱心に考えを巡らせていて、俺よりも時田一太郎の問題に真剣だ。
「とりあえず、あいつは俺の買ったゲームを俺より先にクリアしちゃってムカつくから、童貞を捨てられずにくたばってくれればいいと思うよ」
クローゼットがやらせ心霊番組の怪奇現象かというレベルで大きな音を立てる。さすがの俺も突拍子がなくてビビる。菜月は体が硬直してしまっている。
しかしサクをdisったこのタイミング、音は人為的なものだ。
「菜月」
「誰もいないぜ!!」
「いるんだな」
「友達を疑うなんてひどいぞ!」
「いるね?」
「はい」
いるということで、クローゼットを開けると洋服の帳の下に体育座りで小さくなったサクを発見する。
偶然の神様がいたずらしたのかしらね。この人の悪口をすらすら述べたばかりなのですけれども、如何お過ごしでしょうか。
「奇遇だねえ。まさかクローゼットの中にいるなんて。殺人鬼から隠れるホラー映画のヒロインごっこ?だったら俺が悪役かなあ」
「……そこに立たれると出れないから、退いてもらってもいいかね」
冗談を華麗にシカトされ、俺はクローゼットから離れる。
サクが出てくる。僕は友達のクローゼットの中の洋服に囲まれて興奮する変態ですって言ってくれれば全て解決するのだけど、静かだ。
「そうだ!俺は用事があるから、この機会に、うん、あとは若い二人でお話してみなよ」
菜月はよく分からない言い訳を付けて、自分の部屋から退却する。他人の部屋に取り残された同室の俺とサクは棒立ちのままお互いの様子を伺って
「座って話すか」
とは、口には出さずに、態度で察せよの日本人的なコミュニケーションで対面に座る。
発言に関しては全面的に俺が悪いので、まず軽く謝る。サクはすぐに食って掛かってこない。怒ってはいないようだ。そうとなれば、今現在の最大の謎を心置きなく聞ける。
「俺が知らなかっただけで、友達のクローゼットに収納される癖でもあるの」
「それはない」
それはないらしい。
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