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「あのさあ」
「待った」
サクが改まって正座になろうとする。
「そういう行為は、しなくて良い」
「まだ何も言っていないのに怒るなよ」
「怒ってない」
「怒ってるだろ」
「まだ何も言っていないから怒っていない」
怒るどころか、怖がっている。
未知との遭遇に俺は恐怖が盛り沢山だ。いつもなら笑えるところを、そんな余裕がなかった。いつもというのはいつのことだか分からなくても、遥か遠くの時間なのは確かだ。遥か遠くという尺度で表現出来る程、俺とサクの付き合いは長くないけれど。
いつもの時間が遠くに追いやられてしまう程度に、俺には余裕がない。
「時田、つまりな」
「俺が怒り出すから話すな」
面白がって隠れたなら、出てきて俺を驚かせれば良い話。そうではないのが現状。隠れるというのは、安心する場所が欲しかったのだろう。少なくともサクには、俺が安心材料にはならない。そういうことだ。
サクの話を聞いてやればすぐに解決するのに気分が乗らない。急に訪れた情緒不安定にサクを巻き込むのが申し訳なくなってくる。
「あまり寝てないから、ちょっとイライラしていて。仮眠を取ったら戻るから、部屋に行ってろよ。その時にでも今回のとんでもサプライズの話をしよう」
昨日、七時間は眠ったので仮眠は必要ないし、今回の件を部屋に戻ってまで引きずるつもりはなかったので、全てが嘘だった。
菜月を部屋に呼び戻してから外に出て、時間を潰す方法を考える。あとでサクの耳に入るかもしれないので、彼との共通の友人のところに行くのは得策ではない。
何人か思い浮かんでは、部屋がどこなのか思い出せなくて候補から消える。あるいは俺相手に姿すら見せてくれないか。北原様とか吉里吉里とか。最近会えていない人達。
仕方がないので、寮の端にある自動販売機の横で最近ご無沙汰だったアプリゲームを起動させる。こんな時、BLだったら名前も知らないモブ的学生が来てひと悶着あるが、俺なので何も起きない。なにか起きてくれた方が時間の流れは早くなるのに、望んでいるときは大抵起きない。
起きないことを待ってもそのままだ。
俺は連絡先から一人だけを選んで、今から会えないか交渉する。
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