魔法使いの青(The Great Blueness and Other predicaments)

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 消去法だ。真っ先に思い浮かんではいない。  いくつか思い浮かんだ条件を照らし合わせて残ったのが藤田先輩だった。幸い暇だったらしく、すんなりと彼の部屋に入れた。  先程まで無性にイラついていたのに、今はもう落ち着いている。テンションの上がり下がりが激しすぎて、自分でもちょっとどうかしていると思う。  この違いはなんなのだろう。サクでイラつくことは多々あるが、藤田先輩の関わる全てで不愉快な思いをしたことは一度もない。 「ゲーム、点けようか」 「いえ、気分が乗らないので」 「楽しい気持ちになるためにゲームをするのに、時田は、そうはなりたくない?」 「今だけちょっと」 「うん」 「友達にキレちゃって、反省中というか。もう少し落ち着いたらどうにかなると思うので」 「どうして、怒ったの」 「どうしてでしょうねえ」 「……俺には、なにか、怒ることはある?」 「え。ないですよそんな。先輩には感謝感激雨あられですよ。大好きですもん」 「うん」  否定せずに、藤田先輩は笑う。 「俺は、なんで時田が怒ったのか分かる」 「ええ、なんでですか」 「なにが?」 「なんで分かったんですか」 「ふふ」  また笑う。なんだかいつもより意地が悪い。 「時田は、俺のこと怒らないね」 「怒りませんよ。怒るところがないです。先輩は完璧です、そんなところが好き」 「うん」 「笑わないでくださいよ。なんなんですかもうっ」  楽しいのは藤田先輩で、俺はやり取りに意味を見いだせずに先輩の笑いの種にされている。 「人が怒るのって、なにかを求めてるときなんだって。上手くいかなかったり、心に余裕がなかったり、傷ついたりすると、攻撃的になるって」 「ああ、はい。分かります、そうですね」 「だから怒ったときには、謝罪じゃなくてね、現状の改善……誰かに助けて欲しい、愛して欲しいって気持ちが少なからずあるんだって」  最後の方に来るまでは、素直に頷いていた。  藤田先輩がにやついている理由が分かって全力で 「そういうんじゃないですからね!?」 と、否定する。 「だから、俺、別に、愛して欲しいとか!俺に隠れてこそこそクローゼットに隠れる態度が気に食わなかっただけで!」 「現状の改善……助けて欲しい、愛して」 「違います!」
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