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弦のピアノが奏でる"ス・ワンダフル"が流れる店内。
夜20時を過ぎ、バーカウンターは一気に忙しくなっていた。
「修治、オーダー」
誠一が置いていったオーダー表を順番に並べておき、陶子と二人体制でカクテルを作っていく。
シェーカーにカルバドス、フレッシュレモンジュース、グレナデンシロップを注ぎ入れ、慣れた手つきでシェイク。
必要に迫られて選んだ職だが、バーテンダーという仕事が修治は好きだ。
カクテルのベースは多種多様。
グラスという小さな器の中に、組み合わせ次第で無限の可能性が広がっていく。
「翼、2番のお客様にお出しして」
手で合図して呼んだウエイターの翼に、カクテルグラスに注いだジャックローズを渡す。
ふうっとひとつ息を吐いた修治の視界の端に、紺のシンプルなひざ丈のドレスを着たケイが、ステージに上がる姿が映る。
ちょうど1年半前、彼女はふらりと現れた。
"職業は流しの歌姫です。しばらくここで働かせてもらうので、よろしくお願いします!"
まさか今時、流しの歌姫などと名乗る女性がいるとは。
(変わった人だな)
第一印象はそんな感じだった。
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