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その森は迷宮の森と呼ばれていました。鬱蒼とした木々は日の光を通さず一度、足を踏み入れれば方向を見失い迷ってしまい、遭難してしまうからです。彼女は、その森の奥に住んでいました。自給自足の生活を続ける彼女は世間一般で言うところの『化け物』と呼ばれる存在でした。
人と同じ姿、同じ言葉をしているのに人々は彼女を受け入れません。親が居ない、迷宮の森から出てきた彼女を人々は森に住む化け物なのだと決めつけました。だから、彼女は森の奥に逃げ込み、二度と出ないと心に誓っていました。
人は怖い。あの大きな音を鳴らす筒を向けられると身がすくむような恐怖がある。ズルズルと足を引きずっていきます。人々が撃った猟銃は彼女の足を射抜き、それ以来、片足が不自由になってしまいましたけれど、それでいいのです。足が不自由な自分はきっとこの森を抜けることはできないのなら、この森でひっそりと死んでいくほうがマシだと思ったからです。世界の不条理に抗うように彼女は奥歯を噛み締めていました。
彼がこの森に迷い込んできたきたのは、土砂降りの雨が降り続く日のことです。ドシャドシャとぬかるんだ地面を踏みしめて、カチサチと鳴る奥歯を鳴らしながら彼は歩き続けましたが、とうとう力尽きて倒れます。迷彩服の軍服とヘルメットをかぶり拳銃をお守りに握りしめた彼をジーッと彼女は見下ろしてました。
死んでいるのだろうか? ピクリとも動かない彼を木の棒でゴロリとひっくり返し、その両手に握りしめた拳銃を力いっぱい遠くに飛ばして恐る恐る近寄ります。ハッハッハッと荒い呼吸と焦点の合わない瞳をグルグルと動かしながら彼はうわごとのようにブツブツと呟いてます。何を言っているかはわかりませんが、彼女はソッと彼の額に手を置きました。暑い、熱があるんだ。そう思うと彼女は彼の片方の腕を掴むと不自由な足で引っ張ります。なかなか踏ん張りが効かずに転びそうになりながら彼を引っ張っていきます。どうしてこんなことしてるんだと疑問をよそに彼女は雨避けの家に彼を引き込み、衣服を脱がせて濡れた身体を拭い看病を始めました。
それから数日、彼はずっと眠り続けていました。時折、大声を出して叫びうなされてそのたびに彼女は起こされてとんだ迷惑でしたが乗りかかった船というやつで途中で投げ出すには後味が悪く、文句を言いながらも看病を続けてました。
遠くの空から爆風がする。仲間が吹き飛び
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