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血肉を撒き散らし、同じ人同士が殺し合う。これは戦争で自分はその中の兵士だと思い誰かを殺さなければならないと思えば思うほど彼の心を蝕んでいく。昨日まで一緒に笑いあっていた仲間が今日は身体のあちこちに穴を開けた死体になり果てる。一瞬の気の緩みが死を招き、逃げ出そうとすれば鷹の目のように鋭い目をした上官に死ぬ方がマシと叫びたくなる折檻を受ける。進めば死、後ろに下がれば折檻、左右は仲間に囲まれてどこにも逃げ場はなくいつ死ぬかわからないまま、恐怖の中で彼は生きていました。
その日の戦闘は今までとは比較にならないほど過激なものでした。勝ち目はなく、負け戦というか、彼らの部隊は蜥蜴の尻尾のように切り落とさました。つまりは彼はしんがりとして切り捨てられたのです。
「…………というわけなんだ」
と目覚めた彼は、彼女はムムムと唸りながら頷いた。戦争が起こっていることは知っていたけれど、それは彼女にはとても遠い世界の出来事でしかありませんでした。
「そういうのならさっさと帰ればいい」
「それなんだけれど、今更、戻ってもボクにはきっと居場所はないと思うんだ。敵前逃亡は許されないしさ」
兵士とは不釣り合いに弱々しく笑う彼に彼女ははっきりと言ます。
「戻りたくない。帰りたい。戦いたくないでしょう?」
この少年に銃を持って誰かと戦えるような覚悟があるとは到底、思えません。どこかボンヤリとした雰囲気から予測できるように気弱な少年なのでしょう。
「でも、ボクには帰る場所はどこにもないんだ。パパもママも死んでしまったし……それに君に助けられたお礼をしなくちゃいけないよね」
すがるような言葉。肯定してほしそうな言葉。頼ってほしいと願う言葉を彼女はパシッと振り払う。甘えるなと睨みつけて、
「勝手にしろ。私はお前の保護者でもなんでもない」
勢いよく踵を返し、立ち去ろうとしますが不自由な足では上手く歩けません。倒れそうになる身体をそっと支えられます。
「だ。大丈夫?」
「きっ、気安く触るな。変態め」
「あ、ご、ごめん」
「居たければいればいいが、私にはできるだけ関わるな、わからないことがあければ答えるがそれ以外は話しかけるな」
頬を真っ赤に染めながら彼女はさけびました。
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