第1章

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「そんなことないよ。中里ちゃんが辞めたのは、チーム全体の運営方法がよくないからだと思うよ。それに、チームっていう小さい枠で見るんじゃなくて、少年野球という大きな枠でとらえてみたらどうかな?どのチームでやっても、少年たちの将来のための役に立つんならいいんじゃないかなあ」と、藤波は相当速いペースで飲んでいるにもかかわらず、冷静に、なかなか説得力のあることを言う。 春人は、「まあ、考えときますよ。でも、誘っていただいたのは本当にうれしいです。ありがとうございます」と丁重に礼を言った。そのあとは閉店まで、ずっと藤波との少年野球談議に花を咲かせた。少年野球の監督やコーチをやるような人は、本当に子供たちと少年野球のことが好きな人が多い。だから、飲み会の席などでは、必ずと言っていいほど、ずっと少年野球の話をするのだ。ほかの話題はなかなか出てこないのである。 勘定を済ませて、里香と一言二言交してから藤波と一緒に店を出ると、藤波が春人の肩に手を置いて、「やっぱり中里ちゃんは少年野球に必要な人材だよ。待ってるから、是非来てよ」などと言う。春人はちょっと嬉しくなり、すこし目を潤ませながら「わかりました。ちょっと考えさせてください。今度一度、練習でも見に行きますよ」と藤波に返事をして、別れた。 藤波と会ってしばらくはそれほど乗り気ではなかった春人だが、一週間経って冷静に考えていると、少年野球への思いが沸々とこみあげてきた。自分は子供たちが大好きだし、大事な少年時代の育成にかかわることは大いにやりがいがある。また、子供たちに教えられることはまだまだたくさんある。現場を離れても、野球や子供たちの体のことなど、勉強してきたのだ。それを活かさない手はない。 早速、翌週の日曜日に少し時間ができたため、春人は西浜ヴェガスの練習を見に行った。ヴェガスがいつも練習をしているのは、塚田浜(とはいえ、ごく小さい砂浜である)のすぐ近くにある西浜小学校である。北塚スパイラルの本拠地北塚小学校の隣の学校で、ヴェガスの選手の中に北塚小学校の児童もいれば、逆に西浜小学校の校区からスパイラルに来ている子供もいる。
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