第1章

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 西浜小学校では、3年生くらいと思われる小さな子たちが声を張り上げて練習していた。子供たちの中に大人が数名交じり、1か所バッティングの練習をしているようだった。子供たちを数えたら、10人だった。春人はその練習をしばらく外野の方から見ていたが、日が暮れかけ、練習も終わりに近づいたころに、子供たちの近くに歩いて行ってみた。 すると、1塁側のファウルエリアでキャッチボールをしている女の子2人がいた。そのうちの一人はどこか見覚えのある姿かたちと声で、近づいてよく眼を凝らしてみると、なんと今は別居している娘の依理だった。びっくりして近寄り、「依理、どうしたの?何やってんの?」と聞く。 すると依理は満面の笑みをたたえながら、「お父さん」と言い、走ってきた。「友達とキャッチボールしてるんだよ」と答える。確かに依理は野球を見るのが結構好きで、昴の試合もほとんど観に来ていた。一家で昴の野球に携わっていたため、小さい依理を家に置いておくわけにはいかず、どうしても連れて行かざるを得なかった。春人は常々「かわいそうだなあ。申し訳ないなあ」などと思っていたのだが、依理はそのように無理やり連れて行かれた野球にも興味を持ち、しっかりと試合を見ていたのだ。また、昴の試合の合間などに、春人は依理とよくキャッチボールをしていた。依理は昴の同級生たちにも人気があってかわいがられ、練習の合間に選手たちがやる、野球ごっこのようなものにも混ぜてもらっていた。 しかし、昴がいたチームとは違うチームのグラウンドに自主的に来て、キャッチボールをしている姿には驚いた。 「いつも来ているの?」と尋ねると、「いつもじゃないけど、よく来てるよ」と答える。そして、「同じクラスの愛菜ちゃんと京香ちゃんが入ってるから」という。 「入ってる?チームに?」と春人は聞き返し、ユニフォームを着て片づけを始めた子供たちをもう一度よく見てみた。確かに、髪が長く、後ろで縛っている子が2人いた。あの子たちは女の子だったのか。それと、依理とキャッチボールをやっている子は、まだ入部していないそうだが、お兄ちゃんが6年生にいて、入部したいと考えているようだ。 春人は依理に、「もしかして、依理も野球をやりたいの?」と聞いてみた。
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