第1章

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 ニトレアは目を少しうるうるさせ、深呼吸し、もう一度ティーカップを持って、芳しい紅茶を一口含んだ。  ふわっと広がる適度な苦味と渋み、そして華やかな香り。 「おいしい……」  ネットの世界にはほんとに色々な情報があって、紅茶のおいしい入れ方もすぐ見つかった。 いい時代になりました。  というわけで、ヴェルサイユの紅茶は文句なし(かなり出来レースだが)の合格だった。  その頃、玄関の呼び鈴が鳴った。 執事のトシオリーが迎えに出ると、シドバードが一人、若干気恥ずかしそうな顔で立っていた。 黒いタキシード姿で、白い紙の箱を抱えている。 いつもの騎士の姿も凛々しいが、鍛えられたスリムな体にタキシードは、驚くほど品格があり美しかった。 「ニトレア殿ご所望の品をお持ちいたしました」 「イチゴたっぷりのショートケーキでございますな。  イチゴの産地は?」 「はい、岐阜羽島です。  最高級品を急ぎ取り寄せました」  物によっては一粒5万円もする、桐箱入りの最高級品である。 「あぁ、小粒ながら濃厚な味ですな」 「あ、いえ、かなり大粒の物でして……」 「ええ大粒ですな」  不意につむじ風が吹き抜けた。 「……あー、まぁ、その、姫のお口に合えば幸いにございます」
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