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「これ……このコーヒーにも自白剤でも混ざってんじゃないでしょうね……?」
その噂を聞いた主室撫胸は訝しげにカップに注がれたコーヒーを揺らしては、その波紋を眺めている。
万能家である彼女も、前の店からの常連だった。今では色無の喫茶店を贔屓にしている。
「もしそうだったとしても、お前は大丈夫だ」
色無は薄く笑いながら言った。
「は? 何でよ?」
「お前のコーヒーにはたっぷりのミルクも淹れてある。そうすると、ミルクが膜を張って自白剤を溶かさずに包み込むんだ」
と言うか、お前のはカフェオレだーー色無の指摘に撫胸の顔が赤くなる。
隣にいる後輩ーーまたは、妹的存在の少女に、自分はコーヒーが飲めないことが露見してしまった。
崩月御影も、気まずそうにその隣でコーヒーを啜っている。
過去に自分以外は全員無能だと暴言を吐いて生きてきた女は、酷い劣等感でカウンターに顔を沈ませていた。
(あぁ……情けない……。御影に先を越された)
28歳になったことを自覚していると、こうもずっしりと来るのか、と撫胸は笑わざるを得なかった。
「紙彦兄さん、私は何かしたのかしら?」
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