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笑いながら、グローブをした右手を軽く振る崩月。
「でも、ちょっとまだ痕が酷いから、これは取れないけどね」
火傷と言うのは嘘だが、実際に見せられない有り様なのは確かだ。
このグローブの下には、崩月御影が両親を失った時に負った傷が残されている。
あれから14年も経つのに、一向に癒える気配は無かった。
心の傷は体の傷が癒えるよりも遅いと聞くが、実際にはまだ肉体が回復すらしていなかった。
痛みは無いが、ずっとこのグローブを付けたままかと思うと、ゾッとする。
……それも嘘だ。崩月御影はこれくらいで蒼くなる程デリケートではない。
むしろ崩月が負った傷は、どれも彼女を精神的にも肉体的にも強くしていった。
「でも、そのグローブ、蒸れない?」
7月上旬。初夏と呼んで差し支えないくらいにまで気温は上昇していった。外では暑さで視界が揺らいで見える。
まだ早いだろうと思っても、騒々しいくらいに蝉の鳴き声は止むことはなかった。精々、あと2ヶ月は待たないと静かな昼間は来ない。
「……………………」
いくら肉体的、精神的にも強くなったとは言え、暑さには勝てない。
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