弱肉強食

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 「弱い奴が食われるのは当然の摂理よ」  補足すると、これを言った主室撫胸は猟師ではない。14歳の女子中学生だった。  弱肉強食。  何でも彼女の好きな言葉だったとか。  当時3歳の崩月御影には意味も漢字も全く分からなかったが、多分そんなに感動するようなものじゃないんだろうな、とだけ直感的に思った。  弱い者が食われて強い者が生き残ると言う、この四字熟語を良い言葉とは感じ取れなかった崩月だが、17歳となった今では、正に彼女は強者の肉食獣と言えるだろう。  皮肉にも、獣と化していた。文字通りの肉を食らう獣に。  喫茶『write』。  万能家達の憩いの場であった喫茶『工具箱』をモデルに、元万能家の色無紙彦が経営している店である。  手先が器用なだけに、色無の淹れるコーヒーは、前の店に退けを取らない素晴らしい味だった。  マスターの色無曰く、  「良い豆を正しいタイミング、工程で淹れただけの、ただのコーヒーだ」  とのことだったが、それでも一杯200円がとても安く感じる程の出来だった。  噂では、このコーヒーを口にした指名手配犯が、心洗われ出頭したとのことだ。
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