第2章『立ち上がりの疾走者』

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初撃は、特大剣持ちの突撃と、弓持ちからの鉄矢だった。 両方とも、初撃から重いものをぶつけてくるな、と男は思った。 特大剣自体の素材は鋼鉄と、至ってシンプルだが、それは刀身二メートル近く、幅は三十センチはあるだろう。それの重さは通常の剣とは桁が違い、軽く振っただけでも十分に重い一撃だ。 そして、飛んでくる鉄矢は鏃の部分が鉄で重なるように加工されているために、貫通性が高く、矢自体の威力も大きくなる。 それを同時にぶつけてこようとしている所を考えると、彼女らは短期決戦を望んだ戦い方なのだろう。 そう理解した男は軽く動いた。 まず最初は速度の速い鉄矢の対応であり、それは矢の直線からステップで良ければ良いだけの話だ。 しかし、男はそれに対して前進した。軽く、前に、一歩だけ踏み込むような動きだ。 だが、その前に出した足を直ぐに着くことはしなかった。 故に、自分で起こした軽く前に踏み込む動きのみで、男のバランスは大きく前に傾いた。 倒れる、普通の人間にはその動きが正しくそれに見えるだろう。 しかし、男の意識は至って鮮明であり、思考も出来る。 故に、それを行った。 ◆ 「は?」 突撃を敢行していた特大剣の持ち手はその一連の動きに対して疑問を持った。 当然だろう。 目の前に矢が迫っているのに、前に踏み出し、しかし踏み出した足は地に着かず、それによって相対していた者が流れるように倒れていく。 何故だ、と彼女が感じた瞬間であった。 声が怒号のように響いた。 その声は、彼女の名と、追加の単純な一言であり、 「レン! ――防御!」 頭で理解するより先、体が動いた。 突撃姿勢で前屈みだった体をしゃがみ込むように折り畳み、前進する体に追従させるように持っていた特大剣を勢いのまま前に突き出し、己の体が隠れるように横にし、地面へと刺す。 そして、そこへ流れるように隠れる。 瞬間、衝撃が来た。 ……重…! レン、と呼ばれた彼女は、その衝撃の重さに驚きつつ、その衝撃の原因を確認した。 男だ。 身の丈二メートルはある、正面にいた大男が、いつの間にか自分の目の前に立っていたのだ。
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