第2章『立ち上がりの疾走者』

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男は、先の識者の言葉を猛烈に修正したい気分になった。 が、彼女の言葉は読み間違え以外はほぼ正解だ。 〝居合い〟とは、相手と相対し、その相手との距離一気に縮め、不意を突くための攻撃であり、自分が使ったのは回避動作も含めたものだ。 先の飛んで来た鉄矢は倒れ込む動きで頭上を通過させ、その流れで前屈みという、瞬間的な移動に適した姿勢にし、そして地面を蹴って居合いとしたのだ。 識者はこの流れの中に居合いの影を感じたのか、特大剣の持ち手には対応された。 次は容易ではないだろうが、カウンター出来るという事実は確認できた。 故に、一度大きく後ろへと跳躍し、三人と距離を取る。 この時も一応兵士たちの対応を確認したのだが、彼らは動こうとはせず、戦闘の推移を見守るだけだった。 ……彼女らを信用しているのか、それとも不干渉を徹底しているのか。 どちらにせよ、余計な邪魔が入らなければ逃げるのも楽になる。 そう考え、再度三人の相手に集中する。 すると彼女らは、陣形を作っていた。 先頭が特大剣持ちなのは変わらないが、弓持ちと識者が並ぶように特大剣持ちの後ろに立ち、 「援護、頼む」 「解ってる」 「了解」 来た。 二度目の攻撃パターンは、初撃の時と同じだ。 特大剣持ちが距離詰め、その間を埋めるように矢が飛ぶ。 ……? 戦法が変わっていない。その事に男は疑問を感じつつも、しかし対応する為足を動かそうとする。 瞬間、男の足が止まった。 男が止めたのではない。動かそうとした足が〝止められた〟のだ。 何故、と疑問し、視線を動かす。 足が、氷結されていた。 そして、その氷結から一本の線が伸びていた。その先は、識者の持つ杖だ。 その瞬間、男は理解した。 ……〝魔術師(ソーサリー)〟!
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