第1章『東の旅人』

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そんな側(はた)から見れば物々しい格好の男であるが、彼は旅の荷物道具を持った旅人である。 彼の生まれは遥か東の国だ。 だが彼自身、国の名前はあまり知ってはいない。 それは、その生まれの国は遥か昔から戦が続き、本当の名が定かでは無いからだ。 しかし、古くからの、国全体に伝えられているおとぎ話で、おぼろげながらも確実に伝承されている名前がある。 『極東』 その名は、その国の人間ならば一度は聞いた事のある名だ。 だが、かつての本当の名は失われ、伝わっているこの名は、遥か昔の隣国から言われてきた名だ。 しかし、国の人間はこの名を誇り、そして子孫に伝えてきた。 たとえ戦が起き、どれだけ混沌の中にあろうとも、この名だけは守ってきた。 男は、そんな極東から旅人として出てきた人間だった。
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