3人が本棚に入れています
本棚に追加
「――」
ふと、男が足を止めた。
その男の目の前には、廃村があった。
かなり古くから廃れた所なのか、かつて住居であったであろう家と思われるものは近くに育った木と一体化し、柱にはツタなどが巻き付いていた。
廃村の奥、数十メートル先には林が広がり、切られたような跡がある木の幹からは、新しい木の芽が生えている。
辺りを見ても、人のいる気配はしない。
今まで歩いてきた道も鑑みるに、最早人はまず通らないのだろう。
「……」
空を見た。
陽はまだ明るいが、しかし、これから直ぐに暗くなるだろうと予想する。
ならば、と男は思い、荷物道具を下ろした。
そして、その荷物道具の中から重厚な刃を持った小刀を取り出した。
この小刀はかつて男の友人の鍛冶屋が旅の手前に渡してきた携帯品だ。重厚な刃は刃こぼれしにくく、男の力でもそう簡単には曲がる事は無い頑丈さを誇るので、旅の携帯品としては非常に重宝するものだった。
その小刀を地面に置くと、今度は弓を取り出した。しかし、弓といっても分解され、携帯しやすくされた狩猟用の短い弓だ。
男はその分解された弓を手慣れた手つきで組み立てると、張りの強さを確かめ、準備を完了とした。
最初のコメントを投稿しよう!