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日が沈み、男が林の中に入った約二時間後、男は一頭の鹿を射止め、廃村で火を起こしていた。
火を起こす場所に使っているのは、廃村の家の中にあった石窯だ。この手の物は作るのが比較的簡単であり、材料も簡単に手に入るので、男の故郷にも良く見かけるタイプだ。
男はそれを懐かしく感じながらも廃材から薪を作り、そして国から持ってきた、国でも中々産出地が限られる不思議な、油分を含む石〝油石〟を廃材に擦り付けると、僅かに石が削れ、細かな粒子として油石が廃材に張り付いた。
そこに火打ち石で起こした火花を付ければ燃え上がり、火起こしは完了だ。
鹿は血抜きの終えた肉を小刀で何回も突き刺し、肉をほぐすようにする。
見た目の形は悪いが、食べやすさとしては問題無いだろう。
そう感じ、火が安定した石窯の上に鉄串を突き刺した鹿肉を置く。
何か味付けが欲しいが、今の手元には大した調味料はないので、味付けには林の中で見つけた香草を使う事にする。
匂いはそれ程強くはない香草なので、味をそれ程変える事なく使うことが出来るだろう。
男はその香草を細かく切り刻むと、摩り下ろすように両の手の平で擦りながら鹿肉に落としていく。
肉から溢れた香草が燃えた時の香りも食欲を増してくれる。
簡単な料理であるが、確かな実績がある旅の料理だろう。
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