第1章

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母に部屋へ通されたヒロが私の寝ているベッドの端に腰かける。 「うん、熱はそんなに高くないな」 私の額に右手を置いて安心したようにヒロが言う。 「もう、明日でいいって言ったのに」 「まあそう言うなよ。話を聞きたいって言い出したのは真奈美だぜ」 「そりゃそうだけど。そんなに息切らせるほど急がなくてもいいじゃない」 「お前、俺がどんなにクラシック好きか知ってるだろ。これが急がずにいられるかよ」 「ははは」 おかしくて笑いがこみあげた。 「お、笑ったな。それだけ元気だったら、明日には完全復活だな」 「明日じゃなくて、今すぐ復活させてよ。ヒロのクラシック講義でさ」 「おう」 それからはヒロの独演で私は相づちをうつだけだった。 知らなかった。クラシックの作曲家の人生ってこんなにドラマに満ちていたんだ。 はじめて触れる世界に心地よい眠りが訪れるまで私は耳を傾けていた。 そして、ふと思った。 私にとってのクラシックはヒロの低音だと。
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