0人が本棚に入れています
本棚に追加
次の月曜日、彼女と出会った講義に出席した。日本国憲法の講義だ。この講義は全ての学部の学生が受講できる。学生の数は百人を超える。そのため、大学で一番大きい教室で行われる。
僕はいつもと同じ席に付き、講義を受けた。周りをぐるっと見回してみても、彼女を見つけることが出来ない。
「今日は来てないのかな。」
俺は諦めて、講義に集中した。
日本国憲法の文章は難しい言い回しになっていて、いろいろな解釈ができる。いまだにその解釈の仕方で政治家たちは言い争っている。しかし、現在も第九条のおかげで日本はぎりぎり平和を保っている。なかなか興味深い講義である。
講義が終わり、席を立とうとすると、後ろから声をかけられた。
「すみません。」
後ろを振り向き、俺の鼓動は激しく高まった。そうあの彼女が立っていた。
「この前はどうもありがとうございます。これお返しします。」
彼女は新しいルーズリーフを一枚持っていた。
「別に良かったのに。そんなの。ありがとうございます。」
そう言いながら、紙をうけとった。
「この講義難しいですよね。」
俺はこれはチャンスだと思い、話題を広げようと頑張った。
「そうですよね。第二次世界大戦後に作られた憲法なのに、まだ一回も改正されてないってすごいですよね。」
彼女は日本国憲法に興味があるようである。
「そうですね。僕は経営学部のマサルと言います。また、一緒に勉強しませんか。」
思い切ってこう答えた。心臓はボタンを連打するゲームなら高得点が取れるであろうタイミングで鳴っている。
「良いですね。私は教育学部のミサと言います。」
名前が分かっただけで、十分だと思ったが、このままで終わってしまうかも知れない。もう一個突っ込んでみよう。
「来週のこの講義の後に一緒に勉強しませんか。」
そう言ったあと、彼女は、スケジュール帳を開いた。来週の予定を見た後、彼女は答えた。
「えっと、良いですよ。よろしくお願いします。今日は友達待ってるんで。」
そう言って彼女は教室を出て行った。
これは夢ではないかと思った。奇跡だ。自分の頑張りにも驚いた。女の人に免疫のない自分があそこまで会話が出来たなんて。本当に奇跡だった。
最初のコメントを投稿しよう!