第六章

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 入江には、今回の個展も大成功に見えた。招待客は次々に彼の元へ挨拶に来たし、それぞれに称賛の言葉を述べていった。だが、予想外だったのは、帰宅後にかかってきた北村からの電話だった。 「ああ、今日はどうもありがとうございました」  入江はキッチンテーブルの上に置かれている電話の受話器を耳に当てて、テーブルに身体を預けた。 『いや、こちらこそありがとう』  返ってくる北村の声は、なぜか固い。 「どうか、したんですか」  入江が思い切って聞いてみると、電話越しに北村は溜息をついた。 『君に言おうか迷っていたんだが、隠しても仕方がない』  北村はそこで言葉を切る。しばらく沈黙が流れた。入江は何を言われるのだろうか、と思いながらも、不思議に焦りはなかった。 『絵が、半分売れ残った』  しん、と耳の奥に静寂が流れ込んでくる。入江はそこで初めて混乱した。 「絵が半分売れ残った……?」  今回の個展には元々多くの絵を出展していない。その半分が売れ残ったというと、売れた数もたかが知れているということだ。いままで、こんなことは経験がなかった。 「なぜです。どういうことですか」  早口に聞けば、北村は言い淀むように再び溜息をつく。 『君の絵は変わってしまった』
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