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*寂しい正月*
「ほんと、ごめん!」
携帯越しに謝ると、溜息が聞こえてきた。
『別に。そこまで気にしてねえから、そんな謝んな』
電話の相手は、月山薫。
年上の、しかも男の恋人だ。
「いや、でもさ…」
申し訳なさで言い淀むと、電話越しに月山薫が苦笑したのが分かった。
元旦。
大晦日を一緒に過ごし、そのまま正月からの三が日を一緒に過ごす予定だった…。
母さんから、泣きの電話がくるまでは…。
『帰ってこなかったら、一生恨んでやるからね!』
涙ながらにそう脅され、俺の心よりも月山薫の心の方が先に折れた。
『帰ってやれ』
そういう訳で、俺は今、桜庭家に帰って来ている。
帰って来て驚いたのは、仕事で忙しくて普段は絶対に居ない父さんが、今年は珍しく帰国していた事だ。
母さんが、泣きながら脅してくる訳だ。
家族団欒が大好きな母さんは、この絶好の機会を逃したくなかったんだろう。
『楽しく過ごしてんだろ?だったら、別に問題ないだろ』
諭すように言われ、少しだけ面白くない。
だって……。
それだと、まるで、俺と一緒じゃなくても全然平気みたいじゃないか。
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