寂しい正月 *俺様ピアニスト*

2/6
前へ
/34ページ
次へ
*寂しい正月* 「ほんと、ごめん!」 携帯越しに謝ると、溜息が聞こえてきた。 『別に。そこまで気にしてねえから、そんな謝んな』 電話の相手は、月山薫。 年上の、しかも男の恋人だ。 「いや、でもさ…」 申し訳なさで言い淀むと、電話越しに月山薫が苦笑したのが分かった。 元旦。 大晦日を一緒に過ごし、そのまま正月からの三が日を一緒に過ごす予定だった…。 母さんから、泣きの電話がくるまでは…。 『帰ってこなかったら、一生恨んでやるからね!』 涙ながらにそう脅され、俺の心よりも月山薫の心の方が先に折れた。 『帰ってやれ』 そういう訳で、俺は今、桜庭家に帰って来ている。 帰って来て驚いたのは、仕事で忙しくて普段は絶対に居ない父さんが、今年は珍しく帰国していた事だ。 母さんが、泣きながら脅してくる訳だ。 家族団欒が大好きな母さんは、この絶好の機会を逃したくなかったんだろう。 『楽しく過ごしてんだろ?だったら、別に問題ないだろ』 諭すように言われ、少しだけ面白くない。 だって……。 それだと、まるで、俺と一緒じゃなくても全然平気みたいじゃないか。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

473人が本棚に入れています
本棚に追加