第一章

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 お父さんは、文字通り私の「言葉」を知らない。というか声すら知らない。  私の拙い手話や、表現や仕草でしか、私の気持ちは表現されない。  私はこれをとても歯痒く思っている。  小学校三年生で別れ合い、年に一度僅かばかりの日数を共に過ごすのみの私と妹は、ガバガバ手話を忘れた。  こればっかりは本当にどうしようもない。  使う相手がいない言語は、忘れられていくのみだ。  この事実は受け入れがたかった。  あれから十年ほど過ぎようとしている。  日常会話が出来る程度に残った知識を、今からでも少しずつ増やそうと躍起になっている今日この頃だ。
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