第一章

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 それでも、小さな頃は苦痛だったこともあった。買い物だ。  私はお父さんと買い物に行くのが苦手だった。  鮮魚コーナーでこれはなんの魚だと質問攻めにするのは楽しかったし、お菓子コーナーで好きなお菓子のことを喋るのも好きだった。  私が嫌いだったのは、お父さんに探し物を店員に聞いてくるのを頼まれることだった。  目当てのもののサイズ違いだとか、場所だとか。よく呼び止めて店員に聞くのを頼まれた。  私はすごくシャイな子どもだった。そのため知らない大人に話しかけるなんて、恥ずかしくて嫌でたまらなかった。  大体の大人は自分で声を掛ければ済む話だ。ものの数秒で片がつくだろう。  彼の場合は身ぶりで呼び止めた後、何か書くものを要求し、それに書きながら会話しなければならなかった。ものすごい手間だ。  それならば、喋れる娘を通じた方が断然早いというものだった。
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