第一章

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 手話を使った歌は、お父さんには通じない。その友だちにも通じない。  もはやその身ぶりは手話ですらない。  初めて手話の歌の存在を知った時、思ったことがある。 「これは何だろう」  唇から、辛うじて何を言いたいのかはわかる。でもその身ぶりからは何も伝わらない。  言語ではなく、そういう振り付けなのだといえばいいのに。と思った。  お父さんは、「後から聴覚を失った人はともかく、私は初めから耳が聞こえない。そもそも歌という概念が理解できない。手話で歌うとか言われてもなんのこっちゃ分からない」と笑っていた。  聴覚を持つ者と、持たない者の感覚は根本から違うみたいだった。
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