第一章

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 私はお父さんの言葉を知らない。  お父さんもまた、私の言葉を知らない。  彼の「声」なら知っている。  彼はたまに、おじいちゃんと会話するときに声帯を震わせる。  平淡でアクセントのない、ガラガラ声。  おじいちゃんに、手話や身ぶり手振りでも伝わらなかった時に使う特別な方法。  彼は唇を読む。  たぶん、だからおじいちゃんおばあちゃんと会話ができている。  彼は、耳が聞こえなかった。
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