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「ここでーす」
手を引かれながらやってきたのは105号室。私の部屋からそう遠くない場所にある。
「シュウ兄ちゃーん、ただいまー!」
「おかえり」
奥から森村さんが出てくる。さっきまでのスーツ姿とは違って、今はワイシャツの上にパーカーを羽織っている。
そして、私を見てにこりと微笑んだ。
「いらっしゃい。急に呼び出しちゃってごめんね。あ、どうぞ上がって」
その笑顔に少しどきっとする。
「お、お邪魔します」
「わーい、ごはーん! あのね、私も手伝ったの!」
頬を赤く染めて照れ笑う女の子。
とても可愛らしくて、こんな妹がいたら毎日が楽しいのだろうなぁと森村さんを羨ましく思った。
「そうなんだ、偉いね! えっ、と……お名前は?」
そういえば聞いていなかった。
自分から積極的に話す方ではないから、年下相手でも緊張してしまう。
「遠いに羽って書いて、とわ、っていいます!」
リボンで結われたツインテールを揺らして、はにかむ遠羽ちゃん。
本当に……すごく、ものすごく可愛い……!
「そっか、ありがとう! 私はなずな。よろしくね」
「うん! えへへ」
「2人とももう仲良くなったんだね」
にこにこの森村兄妹。こっちまで釣られて笑顔になってしまう。
「それじゃ、食べようか」
「うん! ほら、なずなちゃんも早く!」
また手を引かれる。本日3回目くらい。
手は暖かく、まだ少し寒い春先で冷えた肌に沁み入るような心地がした。
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