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「え、今からですか!? ……」
どうやら森村さんは電話中のようだ。にしても一体何に対して焦燥しているのだろうか。
「いま遠羽が居るので……はい、はい……えぇ、家主命令ですか?」
遠羽ちゃんを見ると、俯いて下唇を軽く噛んでいた。
どうしたの、と声を掛けようとしたが、私に気づいた遠羽ちゃんは顔を上げにっこりと笑顔を向けてきた。
聞こうにも聞けない雰囲気になってしまい、自分も遠羽ちゃんに曖昧な笑みを返す事しか出来なかった。
「分かりました、いまからそちらに向かいます」
森村さんは大分イラついているようで、眉間に皺が寄っていた。
電話を切った森村さんはこちらを見て言った。
「なずなちゃん、遠羽」
割と低めの声で名前を呼ばれて肩が揺れた。
森村さんの伏せがちな目がこちらを捉えて離さない。
「ごめんね、いまから急ぎの用事が出来ちゃったんだ。それで、できればなずなちゃんにも同行して貰いたいんだけど、どうかな」
「用事って、『正義の味方』関連、ですか」
「うん、同行してくれるかな」
口調こそ優しめだったが、内に悲痛さが込もっているように感じた。
どうしてそんなに辛そうなんだろう。
そうは思っても、とても聞ける雰囲気ではない。遠羽ちゃんも森村さんと同じような表情をしている。
「あ、あの、私、行きます」
「なずなちゃん……」
遠羽ちゃんがびっくりした、というよりはショックを受けたと行ったほうが適切であろう、そんな顔をした。
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