ほだされかけた次の瞬間に許嫁が現れました

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一樹の毎日行われる求愛行動。時には耳元で愛を囁き、時には誰にも知られないように俺の指に自分のそれを絡めたり、この前なんて朝起きたら隣で眠っていて心底驚いた。周りが止めてくれると期待したこともあったけど、俺達を見る生暖かい視線でそれも失せた。 完全な包囲網にじわじわと一樹という存在を受け入れようとしていた。でもそれは、ある人物の登場により見事打ち砕かれることになる。 「貴方が、藤咲董眞さん?」 鈴が転がるような優しい声が俺の名前を呼んだ。可憐という言葉が相応しい少女...彼女は一体誰なんだ? 「そうですが、貴女は?」 男だらけの男子校に単身乗り込んでくるなんて危険極まりない。 「私は松並玲奈。一樹さんの許嫁です」 「許嫁、ですか...」 許嫁...そんな存在がいたなんて知らなかった。ならば何故俺にあんなことを? 「私達のことは祖父母達が決めたことなのですが、私は一樹さんになら嫁いでもいいと思っております。そこで問題となるのは貴方の存在です。失礼ながら此方で貴方のことを調べさせていただきました。とても優秀な方だと...社会へ出ればきっと大きく貢献なさる方だと、そう評価されました。」 「ありがとうございます」 勝手に調べられたのはあまり気分の良いものではないが、高評価なことは正直嬉しい。 「ですがこのままでは、貴方はその才能を開花させることなく闇に埋もれてしまうでしょう」 「一樹が俺を欲しているからですか」 ニコリと微笑む姿はまさに純真なお姫さまだけど、その言葉には刺がある。 「一樹さんは二階堂を背負う方。いつかは子を成し、後世に繋げていかなければならない使命を帯びています。ですが一樹さんは同性である貴方を愛し、その栄光に翳りをみせている。二階堂の血筋を絶やすことは決してあってはならないことです。私の言いたいこと、優秀な貴方には分かっていますでしょう?」 「あいつの気持ちを受け入れるな。ということですね」 『ごめんなさい』と謝る彼女を責めることはできない。彼女の言うことは正しく、世間の道理に準ずるものだ。寧ろこの学園の風習に染まろうとしていた俺のほうが間違いだったんだ。それを彼女が気付かせてくれた。感謝こそすれ、非難なんてするわけがない。
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