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何か言わなくてはいけないはずなのに、言葉なんて何ひとつとして出てこない。
天才医師だなんだと、普段は褒めそやかされているのに、その脳は今、全く役に立たないまま動きを止めている。
「ねえ、だから、先生。
選んでくださらないかしら?」
彼女はそんな俺に微笑むと、もう一度箱を差し出してきた。
医者と患者、一市民と富豪の娘という立場の違いから、ずっと受け取れなかった、チョコレートの箱を。
「このチョコレートを受け取ってここから去るか、わたくしを受け取って共に逃げるか。
……今この場で、選んでくださらないかしら?」
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