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「ニャー」
ベッドの上には小さな一匹の猫がまるまって来訪者を見上げていた。
「…隠してるつもりはなかった…ってのは言い訳か」
龍臣は灰色の頭を掻くと、提げていた袋を床に置き、近くに寄ってきた猫を抱き上げた。
「拾った。…今日やっと許しが出たんだ」
なんの、と聞くのは野暮というものだろう。
龍臣は好きな人ができて悩んでいた訳ではなかったのだ。
ましてやそれが同性だった訳でもない。
彼は捨て猫を見つけ、家で飼えるように父親に頼んでいたのだろう。
許しが出るまではどこかに餌をやりに行っていたのか、だから羽柴の誘いを断った。
そして粟島の声が聞こえなくなるほど上の空になってしまったのも、どこかで一人待つ猫を案じていた。あまりいいこととは言えないが、龍臣がそれほど猫のことを可愛がっている証拠だ。
佐竹と帰る道中、見ていたのはカップルではなく散歩していた犬の方だったのだ。
今日やっと許しが出た、という言い方からしても、一緒に散歩できる犬を羨ましがり、許しがもらえなければ猫を飼うことはできないという考えから悲しみに暮れていたのかもしれない。
そう考えると、自分たちはとんだ勘違いをしていたのだと佐竹たちは愕然とした。
「…おい、大丈夫か」
猫を見て固まる三人に、龍臣は声をかけた。
「…あ、はい。大丈夫です。…しかしまさか猫を拾っているとは」
「全く気付かなかったッスね」
「言ってくれてもいいでしょうに」
三人の言葉に、龍臣は猫の頭を撫でながら目を逸らす。
龍臣なりに思うことがあったのだろう。
こればかりは仕方ない、と佐竹は笑った。
「しかし、可愛い猫ですね」
粟島が猫を見て言えば、龍臣は小さく目を見開き、それから細めた。
「…だろ?」
まるで自分が褒められたかのように笑う龍臣に、三人が胸を打たれたことは言うまでもない。
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