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只今の時間は昼の一時。
昼食を食べる為にも本部に帰ってくる組員が多い時間だ。ついていない。
だが逆に言えば、昼食をとるため組員達が一か所に集まる時間ともいえる。
広間や会議室で昼食をとる組員達は、龍臣の自室よりもかなり離れた所にいるというわけだ。
そう考えればこれはチャンスでもあるのではないだろうか。
普段は使わない物置部屋で一時身を隠していた龍臣は思った。
それより、なぜ自分は自宅でこんなにもコソコソしなければならないのか。
いっそのこと堂々と廊下を歩いてもいいんじゃないのか。
…いや駄目だ。そんなことをすれば噂の早い青龍では、龍臣のこの状態が酒のつまみとして生涯語り継がれることになってしまう。それだけは勘弁したい。
「くそ…せめて被るもんでもあれば…」
あいにくフードつきの服を着てもいなければ、帽子も持っていない。
溜息が下がりそうになった、その時だ。
ガタ…と、目の前の襖が開いた。
「……」
「……」
目を見開いて固まってしまった龍臣と、襖を開いた人物の視線が交差する。
数秒の沈黙の後、襖を開けた人物が口を開いた。
「何してるんですか…若さん…」
唖然として、彼…佐竹は言葉を溢した。
ああ…なんで戸のすぐ前で突っ立ってしまっていたのか。後悔しても後の祭。
滅多に使わない物置部屋に人が来るとは思っていなかったのだ。
問いかけに何も返さない龍臣に首をひねった佐竹だが、その目が頭に生えた犬耳を捉えた瞬間、ことさら大きく開かれた。
「わ、かさん…その耳…」
「言うな」
やっぱり驚くよな…と項垂れる龍臣。
肩を落とすその動きと連動するように犬耳も垂れ下がった。
こういうリアクションをされるだろうことは予想の範疇だったのでショックは少ないが、やはりいい気分ではない。
しかし
「…かわいい…」
ぼそりと呟かれた小さなその言葉に、龍臣の耳がぴくりと揺れる。
言っておくが比喩ではない。本当に犬耳が揺れたのだ。
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