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どうやらこの耳は見かけ倒しではなく、性能まで犬そのもののようだ。
佐竹の小さなその言葉も鮮明に聞こえてしまった。
「可愛い…?」
その反応は予想していなかった。
羽柴が可愛いだの言うのはわからないでもないが、まさか佐竹に言われるとは思わなかった。
「…あ、い、いえなんでもありません。それにしてもその耳は一体…?」
呆然と耳を見ていた佐竹だが、ハッと我に返ったように首を振ると、問いかけてきた。
この際だ。佐竹にも協力してもらおう。
龍臣はこれまでの経緯を説明した。
黙って一通り聞いた佐竹は、腕を組み唸る。
「本当にそんなことがありえるんですね…しかし怪しいのはその飲み物ですけど、一体誰が…」
「それは俺にもわからん。とにかく、何か被るもん持ってきてくれ」
今は犯人捜しよりも、まず無事自室まで帰ることが優先だ。
思考を巡らせる佐竹に龍臣は頼むことにした。
「そうですね。その姿では身動きが取りづらいでしょうし」
快く頷いて見せた佐竹は、踵を返そうとしてハタリと足を止める。
その視線は龍臣の尾てい骨あたりに生えた尻尾に向かっていた。
「帽子だけでは尻尾まで隠せませんね…」
「…そうだな」
フサフサのその尻尾は、今もスラックスをずらしてはみ出している状態なのだ。
スラックスの中にしまおうと思ったらかなり不自然な状態になってしまう。
どうするか、と頭を悩ませた龍臣だったが
「いい方法があります。若さんはここで待っててください」
佐竹はそう言うと、龍臣を置いて足早に部屋から出て行ってしまった。
一体どうするのかと疑問だったが、佐竹のことだ。何かいい案が思いついたのだろう。
そう思うことにして、彼が戻ってくるのを待つことにした。
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