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それから数分後。
龍臣が部屋の隅で段ボールの上に座っていると、ガタリと襖が開き佐竹が入ってきた。
その手には、フード付きのジップアップパーカーを持っている。
「若さん」
龍臣に近づくと、佐竹は服を手渡した。
「一応これで耳は隠せると思います。着てください」
「ああ」
Yシャツの上からパーカーを羽織り、大きめのフードを被れば犬耳はすっぽりと隠すことが出来た。
しかし生地が犬耳に当たる感覚がリアルで気味が悪い。
「それで、これは?」
垂れ下がっている尻尾を掴み佐竹に聞くと、佐竹は頷き龍臣の背後に回った。
「ちょっと失礼しますよ」
一声かけ、尻尾を手に取る。
手に触れたふわふわの感触に、佐竹は感嘆の声を上げた。
「本当に犬の毛みたいですね…ふわふわしてます」
不思議そうに尻尾を撫でる佐竹だが、その手が触れる度、龍臣の体は意志とは関係なく揺れる。
なんだか、触られていてあまりいい気はしないのだ。
真剣に尻尾を触っていた佐竹だが、その顔に龍臣の尻尾がビンタをかました。
「うわ、」
「いつまでかまってんだ。さっさとしろ」
尻尾なので痛くはなかったが、佐竹はなんとも言えぬ感情に襲われた。
一瞬胸を鼓動が撃つような甘い感覚……そう、萌だ。
「そうでした。珍しい物ですから、つい」
「珍しくはないだろ…」
一応この家にはロウという本物の獣人もいるのだから。
そうだ。そういえばロウがいるじゃないか。
ぽんと浮かんできた龍臣よりも濃い灰色の毛を持つ狼の姿に、今更気付いた。
アイツならこの耳がどんな原理で生えてきたかわかるのではないだろうか。
まあ同じように耳が生えているからといってわかるとは限らないのだが。
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