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「それじゃあ若さん、この尻尾をパーカーの下に入れてください」
「パーカーの?」
「はい。でもってこれで…」
考え事をしている内に、佐竹はテキパキと手を進めた。
パーカーの下に尻尾を潜らせ、体に巻きつけるようにする。
そうすることでなんとかスラックスも普通に履けるし、滅多なことが無い限り尻尾も外に出ることはない。
「この状態を保ち続けてください」
「おい…意外と疲れるぞコレ」
なんとか尻尾に力を入れれば腹に巻きつかせることはできるが、少し神経を使う体勢だ。
「部屋に帰るまでの辛抱です。パーカーの前は開けないようにしてくださいね。ばれますから」
「ああ…」
部屋に帰るまでずっとこれか…とげんなりする。
だがまあ、これで堂々と廊下を歩くことができる。
最初に会ったのが佐竹でよかった。
「ありがとな佐竹」
「いえ。それよりも若さん、一枚写真撮っていいですか?」
「却下」
穏やかな笑みを浮かべながらも携帯を取り出した佐竹に、龍臣は冷めた視線を送った。
写真なんて撮られたら永久にこの姿が残ってしまうかもしれないのだ。許すはずがない。
佐竹は心なしか残念そうな表情をすると、仕方なく携帯をしまった。
「それじゃあ、俺はまだ用事の途中なのでついてはいけませんけど、くれぐれも気を付けてくださいね」
「ああ」
そういえば佐竹は何かの用事で物置部屋まで来たのだった。
手間を取らせてしまったなと少し申し訳なく思わないでもない。
龍臣はその場で佐竹と別れ、廊下を歩き出した。
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