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さあ部屋に戻るかと歩き始めた龍臣。
組員とすれ違う度妙に緊張したが、特に何を言われるでもなく皆通り過ぎていく。
時たま今日はパーカーなんですかーと声をかけてくる者もいたが、なんとかやり過ごした。
しかし、現在龍臣は危機的状況に直面していた。
数m先には、現頭首であり実の父の龍正と、その側近であり幹部長でもある萩原の姿が。
最悪な組み合わせだ…。
二人は廊下で何やら話し込んでいるようで、まだ龍臣には気付いていない。
そのおかげで廊下の角に身を潜めることに成功した龍臣だが、どうするべきか。
あそこを通らないと自室にはたどり着けない。
遠回りで行けなくもないが、そうすると時間はかかるし、なんせ人の多い所に出てしまう。
やっぱり二人の前を通るのが一番の近道だ。
(くそ…なんで今日に限って家にいるんだ…)
悪態をついてしまうのも仕方ない。
どうしようかと思案していると
「若?」
背後から低い声で呼びかけられた。
振り返ると、そこには粟島の姿が。
「どうしたんです、こんなところで」
廊下で佇む姿を不思議に思ったのだろう。
粟島は龍臣の今の姿を見て、更に不思議そうに眉を寄せた。
「それに珍しい格好をしていますね」
「、ああ。少し肌寒くてな」
そこを指摘されると面倒なのだが、大抵の奴はこの言葉だけで納得した。
しかし、変に心配性な粟島は一筋縄ではいかない。
「寒い…?風邪をひきかけているのでは?大丈夫ですか?」
「いや、大丈夫だ。気にするな」
肌寒いと言うのは失敗だったか。余計に粟島は食いついてきた。
なんとか離れてもらおうと言葉を重ねるが、その少し普段とは違う態度に目ざとく気付いた粟島は龍臣に近づく。
そしておもむろに額に手をあててきた。
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