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「…確かに熱はないようですね。…なぜフードを?」
龍臣の額が熱くないことを確かめ一人納得した粟島だったが、次はフードに目を付けた。
確かに屋内であるにも関わらずフードを被っている姿は異様だろう。
しかもそれが普段はパーカーなんて着ない龍臣なら尚更だ。
「いや、これは…」
パーカーを着ている理由ならすぐに思いついたが、フードのことについては全く考えていなかった龍臣。
少しの間粟島から視線を逸らしてしまい、わかりやすかったかと気付いて視線を戻す。
「…なんとなくだ」
そうして苦し紛れにそう呟いた。
これでは何かありますと自分から言っているようなものだ。
案の定粟島は瞳を鋭くし、更に龍臣に詰め寄る。
「若、何か隠していませんか…?」
元から怖い顔を更に厳しくし問いかける粟島の迫力は凄まじい。
つい気圧されてしまった龍臣は一歩下がるが、すぐそこは壁だ。
当然壁に背中が当たる訳で、加えて逃がさないと言うように片手を壁についてきた粟島のせいで余計に追い詰められる形になってしまった。
普段なら若頭相手にこんなことはしない粟島だが、疑問に思うと一直線なのが彼なのだ。
もういっそのことバラしてしまおうか…
そう思い始めた時だ。
「何してんだお前ら」
廊下の角から現れた人物に声をかけられた。
まさに救世主…と言いたくなるような状況ではあったが、龍臣にしてみれば余計に状況が悪化したように思われた。
なぜなら、声をかけてきた人物が萩原であったからだ。
当然、その隣には龍正もいる。
せっかく二人に見つからないようにと身を潜めていたにも関わらず、結局見つかってしまった。
「いえ、若の様子がおかしかったので」
粟島は二人の登場に龍臣から離れはしたものの、まだその瞳には疑心の色が浮かんでいる。
よほど気になるようだ。
そして粟島の言葉に、萩原と龍正までもが龍臣に興味を持ってしまった。
「坊ちゃんがどうしたって?」
龍臣を窺う萩原は、パーカー姿の龍臣に眉を上げた。
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