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「珍しいな。坊ちゃんがパーカー着てるなんて」
何度言われた言葉だろうか。別に何を着ててもいいだろ。
と言いたくなるが、確かに珍しいことは珍しいから仕方のないことだ。
何かを言おうとした龍臣だったが、その前に粟島が口を開く。
「寒いと言われたので風邪でも引く前兆なのかと思ったんですが、そうではないみたいで」
「ふーん?」
粟島も佐竹並に過保護な男だ。
どうしてパーカーというだけでここまで話が広がるのか。
未だ隠し続けている耳と尻尾が気になって仕方がない。
龍臣は早く部屋に帰りたい気持ちで一杯だったが、この場で逃げる素振りを見せれば萩原あたりに無理矢理フードを剥がされるだろう。
面倒なことになったと思っていれば、やっと龍正が口を開いた。
「そう気にすることでもないだろう。龍臣、おいで」
手招きされ、何を考えているかわからない父に近づく。
「俺は龍臣と話があるから、二人は持ち場に戻れ」
龍正は萩原と粟島に告げると、そのまま龍臣を連れ歩き出した。
頭首に言われては粟島もこれ以上何かを言うことはできない。
渋々ながらも来た道を戻って行った。
(親父は助けてくれたのか…?)
人の感情に敏い龍正の事だ。龍臣が困っていることを見抜いたのかもしれない。
なんとか危険を脱したようで、龍臣は我知らず溜息を吐きだした。
龍正は龍臣を自室まで連れてくると、部屋に入るよう促した。
話があるというのは方便かと思っていたのだが、本当のことだったのだろうか。
二人して畳に座ると、龍正が口を開いた。
「それで?何を隠してるんだ?」
「……」
ああ、そうだった。
面白そうに口角を上げる父親の姿に、龍臣はさっきまで感じていた龍正への感謝の気持ちを一掃した。
龍正はこういう男だった。
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